ゲーデルの哲学

ゲーデルの哲学 (講談社現代新書)

ゲーデルの哲学 (講談社現代新書)

数学という人類が編み出した最高の論理体系の限界を証明した、ゲーデルという破格の天才を読む本。

人は、何を、どこまで知ることができるのか。

どんな学問であれ、知的探求を続けている人は、この問いを繰り返しているはずである。
歴史上、人は、あらゆる分野の疑問や問題を、それまでに築いてきた定理によって導き、新たな公理として証明し、解に導いてきた。かつて、人の理解を超えたものは、「神」として扱われていたが、学問の進歩が、次々とその領域を狭めていっているように感じる。
特に、あらゆる学問の根底であり、理性の根拠とも言える「数学」に関しては、その無矛盾性は疑う余地も無いものだった。そのように、数学をあたりまえのように使ってきた私にとって、ゲーデルの不確定性定理は、一見、受け入れがたいものであった。

Wikipediaより引用

第1不完全性定理
自然数論を含む帰納的に記述できる公理系が、ω無矛盾であれば、証明も反証もできない命題が存在する。
第2不完全性定理
自然数論を含む帰納的に記述できる公理系が、無矛盾であれば、自身の無矛盾性を証明できない。

p226より引用

(1)一定の公理と推論規則によって構成され、
(2)無矛盾であり、
(3)自然数論を含む程度に複雑なシステムをSと呼ぶ

ゲーデル・ロッサーの不完全性定理
Sは、真にもかかわらず決定不可能な命題Gを含む。
さらに、Sの無矛盾性は、Sにおいては証明不可能である。

数学、それも、もっとも基本的な自然数論は、自然数論自体では証明が不可能な命題が存在する。さらに、自然数論自体の矛盾性は、自然数論では証明できないのである。
ゲーデルは、この信じがたい事実を、数学的定理として証明してしまった。
当時、ヒルベルトが数学の無矛盾性の証明を提唱したりしていたことを考えると、世の中がひっくり返るぐらいのインパクトだったのだろう。

本書のオビに「これで不完全性定理がわかる!」とあったが、
こんな根源的な定理にもかかわらず、発見されたのは20世紀になってからだ。
私もそうだったが、定理を直感的に理解するのは大体の人には難しい。本書では、アナロジー(すでに知られている概念を手がかりに推論していく)やパズルを駆使してわかりやすく説明しようとしている。正直、まだ腹に落ちた気はしないが、アイデアの概要はなんとなく知ることができる。

  • 自己言及で生じるパラドックス
  • システム自体の矛盾性を説明するには、それを言及するためのメタなシステムが必要
  • さらに、メタなシステムもまた、それ自身の無矛盾性を説明することはできない。

 :
 :

もちろん、これによって、数学のすべてがわかったわけでは、断じてない。むしろ、探求すべき問題は無限に続くことも示している。知の探求に終わりは無い。


本書において、不確定性定理はテーマのひとつではあるが、主題はゲーデルという人である。真理の追究を続けた「天才」の人間性と、行き着いた哲学は、あらゆる物語よりも読ませる。ゲーデルの論文や考えは革新的であると同時に、究極なまでに合理的であるし、論理的だ。しかし、生活においては、驚くほどにただの人間なのである。数学という無限の学問に挑み、哲学を究極に考え抜いた。一人の人生の可能性が大きく広がった気がする。