十頁だけ読んでごらんなさい。十頁たって飽いたらこの本を捨てて下さって宜しい。

あまりに潔いタイトルに惹かれて読んだ本。
実は、あとがきで知ったのですが、筆者の遠藤周作が光文社の編集者に渡してから46年後に発見された未公開作品なんだそうです。(僕が読んだ新潮文庫版は平成21年9月出版。)
時代背景的にはかなり前の作品のはずなのに、肩の力を抜いた文体で書かれていて読みやすく、すごく面白い。思わずニヤッとしてしうまう話もたくさんあり、気づけばすぐに読み終わってました。

内容としては、日頃のちょっとした文章を、ちょっとだけ工夫すれば、ずいぶん良いものになるという、遠藤周作流のケーススタディ集。病人へのお見舞いや、先輩や上司に出すお礼状、そしてラブレターまで。悪い例を添削しながら、より印象的に相手に伝える表現について考えていきます。

中には、遠藤周作が作家として気をつけている実践的なテクニックも紹介されています。

夏のまぶしさや暑さを描くなら光の方から書くな。影の方から書け。
(p104)

これって凄いと思いました。
抑制法、転移法というらしいのですが、こうした工夫が、読み手に想像力を広げさせる。また、手紙においては、お断りするような場合でも相手に嫌な印象を与えずに考えを伝えることができる。こうしたちょっとした書き方で、文章の印象は深みを増す。

当時は手紙という媒体だったが、文字によるコミュニケーション手段は、今でもメールやブログ、twitterなど、形を変えて重要な役割を果たしている。本書から学ぶことができるちょっとした気遣いは、まだまだ効果的だと思います。

よく言われることだが、本書でも伝えてる手紙の基本は、
・手アカに汚れた不自然な表現よりも、自分の言葉で
・相手の気持になって
ということ。
これを実際やろうとすると難しいように思います。
本書を読めば、この第一歩は見えてくるはずです。ぜひご一読を。