マグネシウム文明論

マグネシウム文明論 (PHP新書)

マグネシウム文明論 (PHP新書)

マグネシウムは海水1kgあたり1.29gも含まれているらしく、埋蔵量は無尽蔵といっても良い。海水を淡水化した際に、マグネシウムを抽出し、燃料や、空気電池として使う。この際、二酸化炭素などの温室効果ガスは発生しない。使い終わった酸化マグネシウムは、今、実用化を進めている高効率の太陽光励起レーザーで再度マグネシウムに戻し、再利用する。マグネシウムを媒体としたエネルギー循環社会をビジョンとして示し、それぞれの要素になる技術を非常に解り易く説明したのが本書である。

「エネルギー」が関わるお話はどこか胡散臭いものが多かったうえに、軽いイメージのある新書で出ているのだから、どうしても疑いの目を持って読んでしまったのは事実だ。エネルギー保存則さえ成り立たない想像科学で盛り上がってるニュースなんかも未だに見かけることもある。さらに、最近のメディア扇動のエコロジー教団的な騒ぎで、わけのわからない話が毎日流れてくるもんだから、もう疑うなという方が難しい。
たとえば、本書で述べるビジョン実現に向けた悪い方の影響範囲は数年の研究で検証しきれるほど狭くないだろうし、十分に考えきれているとは思わない。(というか、誰もわからない。石油社会がそうであったように。)それに、経験則ではあるが、クリアすべき技術的課題もたくさんあるように思う。鍵になるレーザのー出力、冷却技術、精製処理も、まだまだ実証実験が必要だろう。
しかし、このビジョンすべてを理想的に実現することを期待しているわけでもなく、個々のアイデアを見れば、いろんな分野で可能性を広げそうな面白い話であるのはわかる。

近年の、わずか100年ぐらいの間に人類の共通の価値観として埋め込まれてしまった成長への幻想・欲望に従って、指数関数的にエネルギー消費を進めてきた。過去に太陽エネルギーを貯めた化石燃料を消費することで、このエネルギー消費をまかなってきたが、現在は、いわば貯金を使っている状態。いま流行のエコも、ただただ消費する行動を抑制する意味では重要だが、根本解決ではない。この状況を打破して、本来あるべきエネルギーの「循環」社会に戻るために、本書のビジョンが一つのヒントになるのは明確だろう。

今後のエネルギー・資源の動向をとらえ、今後のイノベーションを考える上でいろいろと知ることができた。社会のビジョンとしても広く考えられていて、読んでて面白かった。
それぞれの技術解説で本質を知るには不十分ではあるが、なんとなく技術の仕組みを知るには良いレベルの解説で、理系じゃない人でも(というか中学生ぐらいでも)十分理解できる内容。

メディア扇動のエコロジー教の儀式に習っているだけでは、イノベーションは起こらない。
新しいインフラを待っているだけではビジネスは逃げていく。
こうした、新しいビジョンを知り、未来に対する考えをめぐらせてみたい。