なぜ Agile Japan 2013 の基調講演に 枡野俊明 さんを呼びたかったか

AgileJapan2013の開催が5/24に決まりました。
今年も実行委員長として、企画から推進を担当しています。

http://www.agilejapan.org/
AgileJapan2013

AgileJapanの基調講演は、海外の著名なアジャイル開発者+日本人というスタイルが定着しています。(去年は「アジャイルサムライ」の著者であるJonathan Rasmussonさんと岸良裕司さん。2010年のAlan Shallowayさん、野中郁次郎先生の組み合わせも印象的でした。)
特にこのスタイルが決まっているわけではないのですが、アジャイル発信の地から最新のお話が聞けるのと、日本の他業種含めたものづくりに関する広い考え方を知った上で考え、その日のセッションにのぞむことができるので、私は気に入っています。

今年はJames Grenningさんと、枡野俊明さんにおねがいしました。

James Grenningさんは、アジャイルソフトウェア開発宣言の一人。今回、AgileJapan実行委員会でJamesさんにお願いした理由は平鍋さんのブログで紹介されています。

もう一名のキーノーターは枡野俊明さんです。
枡野さんは禅僧(建功寺の住職)であり、庭園デザイナーとしてご活躍されています。

今回、私が枡野さんに講演をお願いしたきっかけになったのが、「共生のデザイン 禅の発想が表現をひらく」という枡野さんの著書です。
日本庭園のデザインはその庭を訪れた人に感動や心地よさ、安らぎを与えてくれます。
その庭園を構成しているのは、計算された造形物ではなく、そっと置かれた石や木、水といった自然にあるものです。こうしたものから造られる庭は、設計図通りにつくっても良い物はできません。
都心のホテルや大使館の中にそっとある庭園のデザインを手がける枡野さんは、現場に流れる光や音、そこに置かれる石の表情を、何度も現場を訪れることで聴きとっていくそうです。こうした地道な作業が訪れるお客様の感動を高めています。

この作業は、顧客やユーザーに動くソフトウェアを提供し続け、ユーザー価値、ユーザー体験(ユーザーエクスペリエンス)を高めようとするアジャイル開発の考え方に完全に合致するものです。庭園造りも、ソフトウェア開発も、一見、掴みどころの難しいユーザー体験を扱う、とても創造的な取り組みです。
古くから日本人が取り組んできた庭園デザインの世界には、ソフトウェアを作る我々エンジニアが学ぶことは多いのではないかと考え、枡野さんにアプローチしました。

先日、アジャイルジャパンの講演を依頼するために建功寺に行き、お話を伺う機会がありました。

アジャイル」はもちろんソフトウェア開発についてもほとんど関わることのなかった枡野さんでしたが、いまソフトウェア開発でエンジニアが取り組んでいること、庭園デザインとの関わりについてお話したところ、とても興味を持っていただきました。
また、お話を進める中で、私自身、多くの気づきをいただきました。

庭造りにおける「仮組み」というプロトタイピングに近い作業であるとか、庭園に訪れる人に感動を与えるためのしかけ作り、日本人の「空(くう)」の空間に対する考え方など、ソフトウェア開発でそのまま参考になりそうなお話が想像以上に多かったのにも驚きました。

お話の中で、とくに印象的だったのが、「禅」と「哲学」の違いです。

「哲学」と「禅」はともに生き方・考え方を説いたものです。確かに似ているように思われるけど、明確な違いがあるんです。「哲学」は学問なので文書などの形にできる。でも、禅には実践が伴います。禅もことばだけでは伝わらない。自分で考え、実践するのが禅です。
                         (2013/4/8 西河メモ)

「何をすればアジャイルなのか?」
この問いはよく議論されます。
この答えのヒントは、枡野さんのお話した哲学と禅の違いにあるのではないでしょうか。
アジャイルはビジネス価値を最大化するための考え方・姿勢を示したもので、手順を定義したものではありません。アジャイルも実践が伴わなければその答えは無いように思います。


今回、アジャイルジャパンで枡野さんのお話を聞く機会が用意できました。

AgileJapan2013での講演タイトルは次のように決まりました。
「柔軟心 (にゅうなんしん) と庭園デザインにおけるユーザーエクスペリエンス」

是非、アジャイルジャパンに参加して、アジャイルの本質であるユーザー価値の最大化について一緒に考えてみましょう!