暗号解読(上)

太古より人々は、特定の人に対して安全かつ迅速に情報を伝えることを必要とした。それは戦争の局面を左右する情報であったり、国の情勢を変えるような決定や、自分の想いを伝える場面だったりした。
暗号文はあらゆる状況や場面で重要な価値を持つ「宝箱」と言える。その暗号文を作り出す暗号は言うなれば「知の鍵」である。鍵の素材は誰もに与えられている頭脳であり、解く可能性を持っているといえる。同時に、人々は宝箱を目前にして、その中を覗く事の必要性や知的好奇心に駆られた。人の命が関わるような逼迫した状況も数多く体験してきた。そうした中、「暗号解読」は数々の歴史を残してきた。もちろん、そこには物語も生まれる。

暗号解読〈上〉 (新潮文庫)

暗号解読〈上〉 (新潮文庫)

第I章 スコットランド女王メアリーの暗号
 “秘密の書記法”の進化/アラビアの暗号解読者たち/暗号文の頻度分析/西洋のルネサンス/バビントン陰謀事件

第II章 解読不能の暗号
 ルイ十四世の大暗号と鉄仮面/ブラック・チェンバー/バベッジ対ヴィジュネル暗号/私事通信欄から埋蔵金まで

第III章 暗号機の誕生
 暗号の聖杯/暗号機の発達――暗号円盤からエニグマまで

第IV章 エニグマの解読
 鳴かないガチョウたち/コードブックの奪取/匿名の暗号解読者たち

めちゃくちゃ面白い!

内容はもちろん、翻訳本とは思えない読みやすさ。ページ数は多いのに、一気に読めてしまいます。通勤電車と得書会でしか本を読まない僕が、久々に家で読んでしまった。
ちゃんとした暗号の基礎理論や、メカニズムまでしっかりと解説してくれる。取り上げた一つ一つの暗号にまつわる壮大な物語が背景となって、知的興奮を呼び起こされずにはいられない。

通信の速度・量ともにその重要性も指数関数的に増えていき、もはや無意識に暗号文がやり取りされている昨今、こうしてその原点を見つめなおしてみるのは面白い。

言語学者から古典学者、トレジャーハンターたち、そして数学者までを魅せ続けた「暗号解読」。
その魅力を読み解くことができるすばらしい本だと思います。