アラブの大富豪

アラブの大富豪 (新潮新書)

アラブの大富豪 (新潮新書)


13000000000000000円。

世界の石油・天然ガスの埋蔵総額である。
(今の採掘技術、原油相場における概算)
もうどれぐらいなのか想像もつかないが、とにかくすごい額のお金ということだけはわかる。最近は原油価格の高騰や、それに付随する市場の動きを通して、オイルマネーの影響力は存在感を増している。世界経済への影響は、我々のような一般市民にも感じ取ることができる。
掘れば湧き出る、まさに打ち出の小槌のような天然資源。
中東には、その半分が眠っているといわれる。アラブの人々は、天然の資源から得られる膨大な資金をどのように使ってどんな営みをしているのか。
本書は、長い石油会社での現地勤務の経験から、その豊富な知識・経験をベースに、宗教的背景やアラブの人々の人柄や生活までがわかりやすくまとめられた一冊です。


もともと、イスラム圏の情報に触れる機会のない日本においては、アラブの人々の生活は見えにくい。さらに、テロ報道に代表される報道だけを見ていると、偏った情報しか得られない。文化圏を正確に、やさしく解説したメディアはまだまだ少ないと思う。しかし、世界の構成を考えたときに、歴史的にもその存在は非常に大きく、膨大なオイルマネーで市場を席巻している昨今、経済市場ではアラブの存在は、もはや「知らない」では済まされない。
アラブの人々の経済活動に視点を置いた本書は、文化圏を理解する導入書としては非常にわかりやすい。グローバルに通用するお金を基準に考えると、冷静に見ることができる。
たとえば、2章「世界一多忙なドバイのCEO」や3章「王族投資家アルワリード王子」で取り上げられたお話などは、純粋なビジネスのお話である。アラブの中にも石油資源の無い国もあり、立場的に資源の恩恵を得られない人もいる。そんな中で機会を見極め、それぞれの社会情勢やいろんな立場を克服し、近隣国の富の循環をコントロールし、成功に結びつけている。グローバルなビジネスを考える上では非常に刺激になる内容だ。
また、第5章の「ムハマンドの末裔、ヨルダン・ハシミテ王家」で取り上げられるヨルダンは、本書のタイトル「大富豪」とはほとんど関係の無い、資源の乏しい国なのだが、その外交的役割は、トラブルの絶えない中東情勢を知る上で欠かせない存在になる。こういった、お金以外のお話もしっかりと抑えているあたりがありがたい。

膨大なオイル・マネーは川の流れのように、世界に広がってきている。その源流となるサウジアラビアアブダビ、カタル、クウェイトをはじめ、それをせき止めて世界各国に送る運河のような役割を果たすドバイのような国、その流れを待ち受けるヨルダンなどの周辺国家。オイル・マネーの川が世界に与える影響は、どんどん大きくなってきている。
(第4章「踊る湾岸マネー」末尾のまとめ)

世界経済を形成する大きな「流れ」を知るために、確実に抑えておきたい本でした。