ルポ貧困大国アメリカ

ルポ 貧困大国アメリカ (岩波新書)

ルポ 貧困大国アメリカ (岩波新書)

ソフトウェア開発の仕事をしてると、シリコンバレーの情報とかがどんどん流れ込んでくる。その国では、アイデアを見つけて実現させれば、想像もつかないようなスケールの成功が手に入る。「夢」が存在し、世界のリーダーとしての地位はほとんどの人が疑わない。
そんなアメリカの「強さ」を支えているのは、徹底した市場主義だという印象は、誰もが少なからず持っているだろう。
しかし、徹底した効率化の果てにはかつて無いほどの歪が生まれている。かつてアメリカを支えた多くの中流家庭は、合理化の末に高騰した医療費や、過度に民営化された公的機関の影響で、次々と貧困層に押し込められていっている。さらに、追い討ちをかけるように、数を増す貧困層を狙ったサブプライムローンと言われる金融商品まで登場し、富裕層はとことん財産を吸い上げていく。一度貧困層に入ると、フードスタンプで食いつなぐような生活を余儀なくされる。貧困層の人々は、家族のため、生活のために、選択肢の一つとしてイラクに行く。そして、そんな戦争までビジネス化して、市場構造に組み込まれている。(「兵隊を増やすには格差を広げれば良い」という論理はかなりショッキングだ。)
まさに市場原理主義と呼べるものがまかり通っていて、底辺から見れば、アメリカという国は、立派な「貧困大国」なのである。
パラダイス鎖国」で、日本が開国へ向かうヒントとしてアメリカをよく見ることという話があった。日本は経済政策において、よくも悪くもアメリカを追う傾向がある。社会背景も違うし、市場原理の作り出す事象はすべてが一致することは無いのだが、政策の方向性から、「格差問題」などに見られるように、同じような歪を生む可能性はすでに露呈してきている。このような状況を考えると、闇を灯す先例として、アメリカから学ぶことは多い。
アメリカが市場原理主義をたどってきた原因の一つに、メディアの公共性の欠如があるが、そういった点でも日本は自分の国を見直す重要な局面にある。我々は、真実を的確に捉えなければいけない。効率化も大切だが、本当の豊かさとは何かを常に意識して向かうべき方向を見定めたい。