「心の傷」は言ったもん勝ち

「心の傷」は言ったもん勝ち (新潮新書 270)

「心の傷」は言ったもん勝ち (新潮新書 270)

精神病はとても身近な病のひとつとなった。
心の風邪」という表現が使われるようになったことからもわかるが、比較的初期のうつ
病でも、対処策が社会的に認知され、カウンセリングなどの治療も早期に行われるようになったとは思う。精神的に病んでしまった人、または弱い人を救う仕組みは進化したといえる。
しかし、こういった光の影には闇ができる。
精神科医の筆者の下には、少し前ならただの怠けという症例の相談も多く寄せられるそうだ。専門家でない私は、もしそう思うことがあっても、近年の「心の病」の定義拡大に知識が追いつかず、また、心の傷に触れたくないという心理もあって、そういった問題に向き合うのを避けてきた。同じように感じている人も多いのではないだろうか。
本書でも紹介されているが、「うつの人に『がんばれ』は禁句」というのも聞いたことがある。少し考えればわかるのだが、すべての症例でこの図式が成り立つ訳が無い。こうした誤解が闇を広げている。
まずは、専門家による現状分析を読んで、この問題に冷静に向き合うきっかけができた。

便利な「病」の名前ができる前は、社会人たちはもう少し我慢してたのかもしれない。
精神的に鍛えられることも多かったように思う。

本書では、こうした心の病の問題から発展し、流行の「法令順守」や「個人情報」といった、思考停止語の弊害にも言及する。近年は、何でも簡単に考えるようになってきて、
こうした流行語が世の中に蔓延している。世の中は「辺縁」(グレーゾーンとか)もあって、味わい深いものとなる。なんでも白黒つけるのではなく、あいまいさを生かしてみるのも大切ではないか。

最後の章は提言ともいえる熱いメッセージが込められている。ここは、まさに精神論であるが、痛快でさえあった。
いまの時代の閉塞感を勝ち抜く鍵はここにあるのではないだろうか。