誰か

誰か―Somebody (文春文庫)

誰か―Somebody (文春文庫)

自転車事故で亡くなった故人の本を綴るという静かな設定。
なのに、筆者の絶妙な人物,時間の描写にすっかり引き込まれてゆく。
比較的ゆったりしたお話からから、終盤には一転して、想像もしていなかった事実が見えてくる。さらに、一旦落ち着いたかと思いきや、またとんでもない話に!

点と点を結んで後につながるようなリニアな感覚ではない。
ゆるやかに話を進めていく中で、ふと気づいてみれば、知らないうちに数多の点が意識の中に散りばめられており、そして、それが大きな像を成していて襲って来るぐらいの急展開が見所だ。
日常が穏やかな分、描かれた闇の部分がリアルで恐ろしい。

ストーリーの中のちょっとしたセリフなんかもフラッシュバックされる。

 「隠し事は難しいのではない。辛いのだ。」   (p80)

文中のいたるところに散りばめられた言葉の数々が、「人」をつくり、「時間」をつくる。
久々に宮部みゆきの文章に魅せられた一冊。

ミステリーはたまに読むとすごい。