「空中戦」を考える

日本ファシリテーション協会(FAJ)関西支部の2月定例会に参加させていただきました。
本日、設定されたテーマは、以下の2つ。

  • 「空中戦」を考える
  • ロジカルリスニング

どちらも実践的なテーマで悩んだのですが、「空中戦」に参加しました。


ファシリテーショングラフィックの効果の一つに、

 空中戦を地上戦に持ち込む

という考え方があります。

ゴールや議題,決まった事などを何も書き留めたりすることなく、なんとなく進んでいく議論のことを「空中戦」と呼びます。空中戦な議論では、目的を見失ってしまったり、話が発散してしまったり、大切な気づきを見落としてしまったりします。実際はこのような会議がいろんなところで行われていて、みんななんとかしたいと思っています。
例えば、ファシリテーショングラフィック(ファシグラ)という表現技法を取り入れると、議論を見える形に落とし込んで、地に足をつけて、みんなでじっくりと目的地を攻める「地上戦」に持ち込む事ができます。ファシリテータは、ファシグラなどの技術を駆使して、なんとか空中戦から地上戦に持ち込みます。
実際、ファシリテーションを勉強してきた私も、空中戦はやってはいけないことで、絶対に避けなければいけないという考え方が身についてました。さらに、地上戦に簡単に持ち込める道具や手法が進歩してるのもあって、いつの間にかメソドロジー(方法論)にとらわれてしまい、道具を使うことを目的にしてしまっているという問題もあったりします。今回のテーマ設定に惹かれたのは、その空中戦にあえて飛び込んでみて、何とかできないか考えてみようという逆転の発想が新鮮に感じたからです。

実際に取り組んでみて意外だったのが、空中戦の状況でもファシリテータがやるべき事は道具を使っているときと共通だったこと。

  • メンバーの意見を引き出す
  • 議論のプロセスを組み立てる
  • ゴールを見定める

道具が使えない事で、身振り手振りや、発言の方法についていつも以上に工夫を強いられます。うまく議論を進めるためにはどうすれば良いかをメンバー全員で考えて、道具&手法の重要性、ファシリテーションの効果を改めて実感する良い機会になりました。



以下、ワークの内容&結果をまとめます。

「空中戦」の体験

実際に、プロッキーや付箋などの道具が一切使えない状況、いわゆる「空中戦」での議論を体験し、その課題を見極めます。

壁に貼ってある議題を選んでグループ分け。


私は「カレーの中身を考える」という議論に取り組んでみました。
このテーマでは、以下のような条件が与えられています。

▼状況
ある町内会でファミリー向けイベントを催し、参加者にカレーを提供するのが決まっている。今日は、カレーのルート中身の種類を決めたい。
みなさんは、「町内会役員」。

▼議題
カレーのルート中身を全員の合意で決める

▼設定
・イベント参加者の性別、年齢、好き嫌いははっきりしていない。
・予算は、一食あたりの原価で100円以内(総額35,000円以内)
・カレーは参加者に無料で提供される。
・300食以上、準備する。
・イベントは、昼食時をまたぐ3時間。準備はイベント開始2時間前から可能。調理器具とコンロは手配済み。


議論を始める前に、「観察者」を決めます。
この人は、議論に参加せずに観察することで、課題や議論の様子を客観的に拾っていきます。

準備が整ったところで、「空中戦」の体験。道具を使ってはいけないので、途中で出た意見や、結論を書き出すことができません。
話自体は円滑に進んでいるように思えるのですが、客観的に見ていた観察者にはいろんな課題が見えてきます。

課題についてグループ内でまとめたあと、他のグループと課題の共有を行います。


  • 今、何の話をしているかわからない。
  • 話の方向が不明
  • 自分の意見ばかり言っている人がいる
  • 話の論点、何を話し合うのか認識が共有できていない
  • 人の意見、有力な意見が記憶に残らない
  • ファシリテータが1対1になってしまう。(全体への働きかけができていない。)
  • 議論が一つに集中しない。
  • 選択肢の比較ができていない
  • 本当に合意が取れたのかわからない


空中戦の悪い点が見事に洗い出されます。

空中戦の対処を考える

空中戦を実際やってみて気づいた課題に対処し、うまく議論を進める方法を考えてみます。

私のいたグループで検討してみた結果は以下の通り。

▼導入
 ・発言する前に挙手
   →グランドルールの設定。
    発言者を明確にし、他のメンバーに傾聴を促します。

 ・ゴールを10回言う。
   →ゴールの明確化。
    最初にしつこく言う事で、ゴールを意識します。

 ・決める事(テーマ)を3つに分ける
   →話しているテーマを明確にし、結論を絞ります。

▼議論の発散、整理
 ・1人1テーマ
   →4人で議論したのですが、3つに分けたテーマを、
    1人が責任持って結論を覚えます。

 ・ファシリテータ
   →3テーマのバランスを考えて、進行・確認に徹します。

▼まとめ
 ・一本締め
   →議論の中で、各テーマについて結論が出たら、一本締め。
    「せーの!」の後に、全員で手を叩きます。
    これにより、意見に対する合意を表明し、結論が明確になります。


この対処法を活かして、もう一度「空中戦」に望みます。

「空中戦」対処法の効果

対処法をとりいれて、同じテーマで「空中戦」に入ります。
何も準備せずに取り組んだ空中戦とは違い、話しているテーマが明確になり、同意形成が明確で、参加者の発言のバランスも良かったです。
各対処法の効果についてまとめたふりかえり結果は以下の通り。

  • ゴールを10回言う。
    • ○ゴールを明確にする効果あり。
    • ○アイスブレイクとしても効果的!
    • △ただし、10回はやりすぎ?5回で十分。
  • 発言する前に挙手
    • ○トーキングスティックの代用。1つ1つの発言が明確になり、発言内容もまとまったものになる。
    • ○また、他のメンバーが傾聴に徹することが出来るのも良い。
    • ×議論の滑らかさが奪われる。時間があれば、発散タイムを設けると効果的かも。
  • 3つに分ける
    • ○責任分担が明確。
    • ○今話しているテーマに集中できる。
    • ○スコープ外の話題を後回しにできる。
    • △ファシリテータの力量に左右されそう。的確なテーマ選定ができるかどうかが鍵になりなる。
  • 一本締め
    • ○合意に対して実感が持てる
    • ○議論にリズムが生まれる
    • ○前の話題を引きずらない
    • ○合意できないことは、一本締めの前のタイミングで意見を言う事ができる。
  • ファシリテータ
    • ○ファシリテータは、テーマを担当する3者への確認に徹する。理由を含めて、結論への道筋を確認する事ができた。


これらの対処法は非常に効果的で、何も準備していないときと比べて、明確な結論・合意が得られました。
特徴的なのは、動作(手を叩く)や、テーマごとに人を割り振るなど、何かの決定事項や話の内容を、人や音・動作に結び付けて可視化しようとしていることに気づきます。この視点は道具を使っているときと共通だったりします。

まとめ

導入時に、参加者(16名)に対して、空中戦に対するイメージについてアンケートがありました。

実際に空中戦に遭遇したら?

  • 飛び込んでみる 8人
  • 避ける 4人
  • わからない 3人

このワークを通して、空中戦の対処法や可能性を見出せたのか、終了後は以下のような結果になりました。

実際に空中戦に遭遇したら?

  • 飛び込んでみる 12人 
  • 避ける 4人
  • わからない 0人


私も空中戦は避けなければいけないと思ってましたが、ファシリテーションの果たせる役割は重要。制限された状況だからこそ、気づくこともあります。
実際に日常で数多く行われている「空中戦」。あえて飛び込んでみて、制空権を確保するのも良い機会かもしれません。