擬似科学入門

疑似科学入門 (岩波新書)

疑似科学入門 (岩波新書)

「考える」ための処方箋。
世の中で飛び交う訳のわからないキーワードや、その解説が本当に正しいのか。
本書冒頭のキーワードをついつい使ってしまっている人、それが宣伝文句になっている商品をなんとなく買ったりしてる人は一度読んでみると面白いです。

テレビを見てると明らかに信憑性に乏しい情報が流れ込んでくる。
○○で痩せる!とか、○○健康法なんてのは昔から溢れかえってるし、超常現象とか霊がどうのこうのとかも手を変え品を変え、世の中にはびこる。

  • 何でそんな理屈で納得するのか?
  • 何でそんな簡単な検証で結論づけるのか??

ツッコミ始めたらきりがない。
よくわからないが、ちょっとでも効果がありそうなものがあればすぐに飛びつく人は本当に多い。
納豆を買い占めるぐらいならほとんど実害は無いが、時には人生を狂わせる悪性のものもあり、ひどい場合は他人に迷惑をかけたり、生命を危機にさらす。
スピリチュアルとかいう単語を書くのもアホらしいのだが、テレビの出演者が真面目な顔で番組進めている光景は疑問を通り越して恐ろしささえ感じる。
あるものを信じるだけで精神的に安定が得られたりすることもあるのだが、さらに飛躍して世の中のもの全てを万能に理解しようとしたりする。ある限定された分野で超越的なものを定義することで、精神的にも社会的にも安定をもたらす宗教の存在は非常に重要な役割を果たしているが、科学が進歩を遂げることで、超越的なもので説明される事象というのは少しずつ減ってきている。しかし、これだけ日常生活に溶けこみ進歩したかに思われる科学も、万能どころか自然現象や人間といった、複雑系のほとんどは今もなお科学的見地で説明するのが難しい。わかりやすくいえば、まだまだ「ネ申」の方が科学よりずっと万能なのである。
どんな事象でも、科学者が疑問をいだき、研究を続けることで、いずれはいろんな事象が解明されていくのだろう。しかし、そんなことは何万年先になるのかも全然わからないし、そんなすごい知識をみんなが理解して思考に組み込まれるか予想もつかない。非科学の方が都合の良い世の中はしばらくは続くのだろう。

科学と非科学の境界を作るのが、「思考停止」である。

自分が理解できないもの、うまく説明できないものは「擬似科学」に委ねると納得できる。安心できる。テレビの健康特集で、いかにも納得させるような実験や証言を集めて、効果があるように見せている。感覚的な理解では、疑いようもなく、真実に見えてしまう。
しかし、本当は科学的検証や統計的裏付けが不十分な場合が多い。簡単な例では、反証が欠けているものだらけだ。
ちょっとした科学的視点を持てば、疑いが出てくるようなものも、スルーされて消費されているのが非常に多い。
本書はそういった数々の事例を論破し、正しい目の持ち方、考える姿勢を教えてくれる。

特に、最後に取り上げる環境問題は大きなテーマだろう。
今、世界的に注目される話題で、さっき見たYahoo!のトップページまである日真っ青になって、「美しい地球を守ろう」とかいう状況。
エアコンを根拠のよくわからない28度設定とかにして、うちわで仰ぎながら仕事しててすっかり他人事でも無いのだが、温室効果ガスとここ数年の異常気象との関連性なんて正確にはわかっていない。地球の周期的な気候変化という学者さんもいたり、人類の活動による影響なんて誤差の範囲だという説もあったり。でも、どれが正しいのかも、誰にもわからない。これも思考停止で過剰な盛り上がりを見せている部分もある。
本書では、こういった科学の苦手な複雑系の問題も、予防措置原則という考え方を提示している。科学は、よくわからない問題に対しても、歴史的に実績のあるアプローチを残している。(もちろん万能ではないが)これも、思考停止に陥らないための有効な考え方のひとつだろう。

数多くの情報が考えること無く手に入るようになった現代だが、なんでも人から聞いた知識や情報からだけで判断して安心していては危険だ。
「考える」ことをやめてはいけない。

個人的あとがき

情報がもりだくさんで、よく考え方のまとまったおもしろい本でしたが、表現が理系全開。表現が気にかかるところも多かった。この本をちゃんと読める人は思考停止の心配はなさそうです。本当にこの本の内容を考えてほしい人には残念ながら読みにくい本かもしれない。うーむ、残念。